コスプレしたおじさんを嘲笑することによって、満たされるみんなの自尊心と生まれる優越感の中、私はただ一人傷ついておりましたと今更のように偽善者ぶりたい。
クソババアは、私がすっかりテストサボりのことなどを忘れていた頃にやってきた。
そう、地獄の週末がやってきたのだ。
人は、日曜の夜にサザエさんを見ると明日来る月曜の存在を思い出して鬱になるというが、私は違った。
某・音楽駅という番組を見ると、明日は休日かとため息を漏らすようになっていた。
いつのまにか、嫌いだった学校もクソババアと過ごす1日よりかはマシに思えるようになったのであった。
クソババアは、土曜の10時。約束の時間きっちりに家のチャイムを押した。
私はとりあえず、土下座の練習を10回してから、クソババアに応答した。
クソババア「遅い。なにしてたの」
あたし「謝罪の練習です」
クソババア「練習?」
あたし「なんでもないです」
早々怒られるのもどうかと思ったので、私はとりあえずクソババアをリビングに招き入れた。
円卓を囲んで座り始めたやいなや、クソババアは私に踏ん反り返って見せた。
私は一体何がどうしたかわからなくて、ただその意気揚々としたクソババアを眺めていた。
そしてそのクソババアの態度を眺めていてわかったことがある。
クソババアは結構、鼻息が荒い。
無理な姿勢を保っているためか、いつもより呼吸が荒めである。
この空間にはクソババアと私以外いないため、部屋にはただクソババアの鼻息だけが音を立てていた。
クソババア「…で、テストは?」
あたし「……Don't touch me」
クソババア「は?」
あたし「I don' t know Japanese. Sorry」
あくまでしらを切ろうと思ったのだ。
素直に「寝てました」と言える勇気などなかったから。
クソババア「テストは!!って言ってんの!!」
あたし「oh....」
クソババアは留学経験があるくせに、英語を拒絶した。
私はクソババアに圧巻されて、最後はしょげた外国人へと化してしまった。
クソババア「テスト、何点ぐらいになりそう?自己採点、したんでしょ?」
あたし「…してません」
クソババア「は?なんで?」
あたし「できなくて…」
クソババア「もういい。わかった。じゃあ、問題用紙見せて。」
あたし「ありません…」
クソババア「はぁ??学校においてきたの?」
あたし「ありましぇん…!」
クソババアは引かなかった。察して欲しかった。
つまり、私はテスト寝坊して受けてないんだってことを。
クソババア「じゃあなんの問題出たか言って。大体でいいから」
あたし「ヴェルディ…」
クソババア「は??」
あたし「国民楽派ヴェルディ!!!!!」
クソババア「それはロマン楽派」
あたし「ひぃ」
クソババアの圧勝だった。
気づけば、私は泣いていた。
これから、いずれバレる未受験のテストのこと。
そしてバレた途端に烈火のごとく怒るであろうクソババアに耐える私を思うと、どうしても泣けてきてしまった。
もう、どうせ隠し通せないなら。いずれバレて怒られてしまうなら。
いっそ、素直に言ってしまおうか。その方が、案外「正直者は許すわ」なんて言ってくれるかもしれない。
だから私は、そんな一縷の望みに賭けた。
あたし「ぐすぐすびえーん」
クソババア「なんで泣いてるの」
あたし「テスト受けてまちぇん、ひぇぇぇ」
クソババア「!?!?!?!?!」
そこからクソババアがなんて言ったかはわからない。ただ、並べられる限りの罵倒を吐かられた気がする。
クソババア「あなたって人は本当に信じられない」
クソババア「どうせゲームしてたんでしょ、計画性を持ってよ」
クソババア「こんな時期に何を考えてるの」
クソババア「高校どうするの」
私は何も答えなかった。
ただ、クソババアの言葉を右から左へと流して、菩薩のように穏やかな心中で己の信ずるホモを崇めていた。
クソババア「もう見ていられない。そもそもやる気がないのよ」
クソババア「答えだって、今まで写してきたんでしょう。わかってるからね」
クソババア「今まで見たどの生徒よりもひどい」
嵐はいずれ過ぎ去る。
今はただ、耐えろ。
そう己に言い聞かせた。
Life is beautiful. Don't cry.
Ok, ok, I'm very KUZU.
クソババアは、結構怒っていたように見える。けれど、心と耳を閉ざしていたため、いざここに書くとなると、あまり色濃い思い出を掘り出せない。
全ては私がトラウマにならないように、私自身が勝手に脳内を操作した故なので許していただきたい。
だけれど、一つ覚えていることがある。
朝の10時から16時までこってり怒られた後の私がまず思ったこと。
それは________、
"さぁ、今日も犯罪指数あげるぞぉー!"
液晶の中に映る彼に恋をした次の日、彼は私以外のカワイイ子と結婚してしまいました。それ以来、生きる希望が沸きません。(43歳 主婦)
学校に連絡をしないで2日を過ごしてしまったのは、まぁこの際しょうがない。
気にしない。だって、クズだから。
でも、私はクズ以上にクズだから、連絡をしていないことに気づいていながらも、なお連絡をとらなかった。
なぜかって?
それは、謝りたくないからである。
散々見下している担任(セクハラジジイ)に、なぜ「ごめんなさい」と言わなければならないのか。
(なお、セクハラジジイの名の由来は、自分のクラスメイトを対象に強制的に肩揉みや、ボディタッチをさせるいうなかなか悪どい人間だったことによる。)
そんなことを考慮しながら、一寸ばかり考えたが、私がそのセクハラジジイに謝るところで生まれるメリットは皆無だったため、私は連絡をせずにそのまま、その日を過ごした。
そして次の日は早朝からの仕事がなかった母親に叩き起こされて、渋々学校に行った。
なんで3日のうち、2日も受けてないテストのラストを受けに行く必要性があるのか。
3日なら3日でフルにサボったほうが、完遂していてかっこいいじゃないか。そう思ったけど、そんな言い訳は母に通じなかった。
むしろ、火に油を注いだだけだった。
でもとりあえず、聡明な私は2日もテストを休まなきゃいけなかったぐらいに重大なことが起きたことを演出するため、大掛かりな装飾を身に纏うことを決めた。
学校に連絡をできなかった=連絡なんて忘れてしまうぐらいにショックなことが起きた=心に傷を負ってしまった!
そういうエピソードが垣間見れるように演出しよう!
そう思い立った私は、家の薬箱にあった包帯と眼帯を手に取った。
そして、おもむろに包帯を腕に巻き、眼帯を目にあてた。
これで私は満☆身☆創☆痍!
鏡で見た私の姿は、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうなぐらいに薄弱だった。
これでは、先生方も私のテストサボりのことなど言及できまい。
私はルンルン気分で、教室の扉を開けた。
すると、一斉に降り注いだ私への視線。
そして、笑いでもなく、悲鳴でもなく、みんなが訝しげに眉を顰めた。
おともだち「どうしたの、それ…」
あたし「…あ、ああ…別に…ちょっと、ね」
お友達から当然寄せられた疑問に、真面目に答えずに、傷ついている心を隠しているかのような含み笑いをしてみせた。
すると、友達は触れてはいけなかったと察したようで、それ以上はもう何も言ってこなかった。
もう話しかけてくる人もいなかった。
この時点で、私のプライドと自尊心と矜恃は限界を迎えていた。
なぜ、あんなにも意気揚々と包帯を巻いてしまったんだろう。
なんで、クラスメイトからこのような目線を送られるということを考えなかったんだろう。
ばか、ばか!!!!
アタシって、本当バカ!!!!!!!
朝のホームルームが始まって、セクハラジジイが登場した。
すると、やはりすぐに、先生は私を見て、
セクハラジジイ「田中、お前どうした!」
あたし「…」
セクハラジジイ「2日も無断で休んでると思ったら、なんだその格好は!」
あたし「…」
セクハラジジイ「なにがあったんだ!いってみろ!」
もうやめてくれ。
やめてくれよ!!!!触れないでくれよ!!!
それ以上クラスの注目を集めないでくれ!!!!
セクハラジジイは私を責め立てあと、それでも何も答えない私に、私の将来についてへの不透明な見通しについて語り始めた。
セクハラジジイ「田中、俺、お前が心配だよ。
田中はな、俺、正直よくわからないんだ。
私立から公立に転校してきて、慣れないことが多いのはわかる。わかるぞ?
だけど、無断欠席は私立でも公立でも変わらずダメだろ?」
あたし「…す、すいませ…」
セクハラジジイ「そんなんで将来どうする?
テストすらまともに受けれないで、高校どうするんだ?
なぁ、教えてくれよ。俺、わかんねぇよ」
あたしだってわかんないよ!!!聞かないでよ!!!!
ていうかみんなの前でそんな話すんな!!!!訴えるぞてめぇ!!!!生き恥さらしかこのやろう!!!!!!!!
セクハラジジイ「な、田中。
お前、なにがあったんだ?」
あたし「……」
セクハラジジイ「なぁ、なんで意地はってんだ?」
あたし「……階段から転げ落ちました!!!!」
セクハラジジイ「…目もか?」
あたし「NO!!!!!ものもらいです!!!!!!!」
セクハラジジイ「そうか。よーし、後で職員室に来るように。」
そうして、朝のホームルームは終わった。
私の学校生活も終わった。
また中学校転校しようかな。
でも何度も転校したら内申悪くなるんだよなぁ…。
あ、でもテスト出てねぇからハナっから内申悪りぃわ。関係ねぇわ。
よっしゃ、転校しよ。
うぇーい!そうと決まったらすぐ転校!
福沢諭吉の創設校にでも願書書くかー!!!!それとも、いっそアメリカに行くか!!!!!!California is my home!!!!!
私はそっと、瞳を閉じた。
それは、涙がこぼれてしまうのを抑えたかったからじゃない。
まぶたの裏に浮かんでくる、私の新たな中学生ライフを妄想していたからだ。
あくまでそういう意味合いで瞳を閉じたのだ。そういう意味だ。
泣いてなんかいやしない。
滲んだ視界の中、私は放課後、職員室を訪れた。
先生は、「ここじゃなんだから」と私を工具室に呼び入れた。
職員室で話されない時点で、長丁場だということを察した私はとりあえずゲームする時間が減ることに落ち込んだ。
だけど私はここで萎れるようなタイプの人間ではない。少ない脳みそで考えた末、ゲームを少しでも多くするには、包み隠さずありのままの本心を言うべきだと確信した。
セクハラジジイ「なんでここに呼んだかわかってるよね」
あたし「はい!」
セクハラジジイ「テスト二日休んだこと。それと、その怪我ね」
あたし「大丈夫です、この怪我は!ほら、元気!元気!」
私は包帯を巻きとって、傷一つない肌をセクハラジジイに見せつけた。
あたし「ものもらいだって!嘘です!かゆいぐらいです!」
眼帯もぶちとって、隠していた目をぱちぱちと瞬きさせて見せた。
セクハラジジイは、なにか驚いたかのように口を開けていたけれど、私は気にせずに続けた。
今思えば、空気の読めなさがMAXであった。睡眠不足は人をおかしくさせるようだ。
あたし「2日もね、寝坊しちゃって!そういうことです!じゃっ!」
先生の疑問を全て解決したのち、長居は無用と決め込んで席を立った。
だけれど、席を立った瞬間にセクハラジジイは今まで開けていた口を瞬時に閉じて、私の腕を掴んだ。その手は、油を浴びたように濡れていた。普通に気持ち悪かった。
セクハラジジイ「ちゃんと説明して?」
あたし「ひぃ」
セクハラジジイ「そんなふざけた理由で納得すると思う?」
〜中略〜
あたし「だからやっぱり、人生なんてワンチャンっしょ!」
セクハラジジイ「もう帰れ」
というわけで、私とセクハラジジイの戦いは終わった。
中盤ではペンチを持ち合い、夢を語らいあう場面も見られたが、最終的には人生は苦楽の割合的にはどちらが多いのかという論争で仲違いしてしまった。
私はここで、人類はやはり分かり合えないのだと再認識した。
私はこのセクハラジジイとの戦いを終えて、テストサボりという負い目は払拭されたと思っていた。
そう、私は忘れていたのだ。
クソババアという存在を_____。