私の99%は私のこと。残りの1%は仕方ないから世界平和でも祈っといてやる。それでいいんだろ。

クソババアは私が期末テストを蹴ったことを知った次の週も来た。

だけれど、毎週チクチクと私の胸を刺してくるクソババアの小言にはもううんざりだった。
もう声を聞くのも嫌で、消しカスを耳に詰めたこともあったぐらいだ。(通気性が良かったので、普通に聞こえました。)
クソババアに色々してきた身として、今更被害者ぶるつもりはないが、あの時の私にとってクソババアはそれ程までに私の生活を脅かしていた。

受験まであと4ヶ月という中で、ついに耐えられなくなった私は授業が終盤へと差し掛かったのを見計らって、おもむろに口を開いた。


あたし「もう、来週からいいです」
クソババア「?どういうこと?」
あたし「もう、授業はいいってことです」
クソババア「なんで?」


クソババアは思いの外、冷静だった。
私の言葉に声を荒げることもなく、ただ淡々と疑問の声を上げた。


あたし「もう、高校決めたんで。それにその高校ならノー勉でも行けるんで」
クソババア「…入学してからはどうするの?それなら高校の範囲を…」
あたし「寮なんで!!!!!自習時間とか夜補習とかあるんで!!!!!」
クソババア「寮!?」
あたし「寮デス!!!!」
クソババア「寮!?!?」
あたし「寮デーーースッッッッ!!!」


クソババアは私の突拍子も無い選択に唖然としていた。
そして私がここまで激しくクソババアへの嫌悪をあらわにしたのは初めてだったため、それも信じられないようだった。
わなわなと少し震えている手を見れば、クソババアの今の心境など容易に想像できた。


クソババア「……私が来なくなったら、どうするの?」
あたし「残り少ない東京生活をエンジョイします」
クソババア「そんなんでいいの?」
あたし「それがずっとしたかったんです。もう受験なんてどうでもいいんです。しにたい」
クソババア「私が追い詰めてたの?」
あたし「そうです。あなたのせいで自殺未遂したぐらいですもん。」(※嘘ではないはず)
クソババア「そう…」


クソババアは萎れた。
クソババアが凹むことってあるんだ。これが鬼の目にも涙って言うんだなぁと一つ諺の意味を感慨深く理解していると、クソババアはおもむろに席を立った。


お、よっしゃ。帰るやんけ!
よっしゃよっしゃ勝利やで!

と、心の中でガッツポーズをしていると、クソババアはおもむろに私の携帯を奪った。
私は突然のことに体が反応せずに、クソババアの手中に堕ちた携帯を見つめることしかできなかった。
これから何が起きるというのか。
なんとなく察したけれど、やはりそれは大人としてすることではないなと安堵してクソババアに携帯を預けたままにした。
それが間違いだった。


クソババア「どうせ、私が来なくなったらこの携帯で遊びまくるんでしょ?」
あたし「…え?」
クソババア「それはこの携帯の本来の使い方ではないわ」バキッ
あたし「ファッッ?!?!?!?」



ここで、問題です。

あなたはシャレオツな大学で20代の前半を過ごしたクソババア独身クソ野郎は何をしたと思いますか。
ささやかながら、ヒントを提示します。
私は、人の携帯を触る人が嫌いです。
それは私のネットページの大半が、趣味全開のサイトで埋め尽くされているからです。
そんな私の本性を知らない人に、私の性癖がバレては一巻の終わりです。
だから断固として、携帯をいじられるのは嫌いです。

でもそれ以上に、私は人の携帯を壊す人が嫌いです。
嫌いっていうか、怖いです。
私の家庭教師はゴリラです。

それだけは言えます。
私の家庭教師(クソババア)はたった二つの手でスマホをかち割りました。
すさまじい腕力でした。
マッハ5ぐらいでしょうか。光よりもずっと早いスピードでスマホを握った拳を机に振り下ろしました。
そして私の愛してやまないスマホはよく見なくてもわかるぐらいに亀裂が入っておりました。


クソババア「これで、少しは勉強するかしら」
あたし「……?」
クソババア「これで私も安心だわ。」
あたし「??????????」
クソババア「ふんっ」(ドヤ顔)


クソババアはしてやったりという顔をしました。
私はにも言えませんでした。そんなことよりも喪失感の方がずっと大きかったからです。

私の携帯。
私がブックマークしたサイトのデータは飛んでしまったんだろうか。
私が保存したあの画像は消えてしまったんだろうか。

私が今まで大切にしてきたデータが失われたのだと思うと涙が出てきて、それと相まって目の前にいるクソババアへの溢れ出る怨みも止まらなくなりました。

なんだこの婚期乗り遅れが…恨めしい…このやろう…何が為に息をしてるんだ…。

そして、気づけば私はリビングに置いてあったテレビのリモコンでクソババアの鞄を一心不乱に叩いていました。


あたし「この怨み晴らさでおくべきか!!この怨み晴らさでおくべきか!!!」
クソババア「な、なにしてるの」
あたし「この怨み晴らさでおくべきか!!!この怨み晴らさでおくべきか!!!」
クソババア「ちょっと…」
あたし「この怨み晴らさでおくべきか!!!!」
クソババア「うるさい!!!!!!!!!!」
あたし「あ、あ…す、すいましぇん…」


クソババアの鞄は革製だったのだが、私が叩いていくにつれてどんどん硬かったはずの生地は柔らかさを持ち始めた。
そしてそんな頃合いを見計らってか、無双状態の私にクソババアが声を荒げた。
クソババアが声を荒げるのは今までになかった事だった。いつも怒ってはいたけれど、ただ淡々と私の拙いところを執拗に責めるだけだったから、私はクソババアの怒声に完全に怯んでしまった。

クソババアは自分の鞄を私から遠ざけた後、私からリモコンを奪った。
武器を奪われたら、なんだか急に自信がなくなって、生きてることでさえ申し訳なくなった。


クソババア「そんな逆上するぐらいなら、今まで勉強すればよかったでしょ」
あたし「…」
クソババア「あなたのそういう甘い蜜だけ吸う態度がダメなのよ。わかる?」
あたし「……ごめんなさい」
クソババア「謝るぐらいならしないでよ、ていうか言わせないでよ、こんなこと。」
あたし「……すいません」
クソババア「高校生になって、こんなことで説教されるなんて恥ずかしくないの?」
あたし「……本当、なんか…」
クソババア「アニメに夢中になって、ゲームに夢中になって、結局何を学んだの?そんなに時間を無駄にしてどうするの?」
あたし「……そうですね。本当に私はクズです…」
クソババア「そんなこと言ってないでしょ。急にどうしたの、そうやって言ったってね…」
あたし「お金は貸さないし、宿題は写すし、怠かったら学校サボるし、募金には疑いをかけてしまうし、クズなんです…すいません…本当、クズです…」
クソババア「どうしたの…そこまで責めてないじゃない」


クソババアは散々私を否定しときながら、いざ私が自分自身を否定し始めたら異常なほど焦り始めた。クソババアに合わせただけなのに、全く更年期の考えることはわからん。


あたし「でも闇金とギャンブルには手を出さないって決めてるんです…。それやったら本当にクズだと思うんで…」
クソババア「そ、そうね、それはいい心がけよ。」
あたし「でも、正直私思うんです。
ギャンブルしてる人ってただ刺激が欲しいだけで、満たされない心をギャンブルによって潤したいだけなんだって。でもその唯一の娯楽であるギャンブルにはお金がかかるから、闇金へと流れてしまうんだと思うんです。」
クソババア「そ、そうね。確かに、暇な人が多いわね」
あたし「でも、これだけギャンブラーの気持ちがわかるってことは、私はギャンブラーと同じ感情を持しているということであって、つまり私はギャンブラーと同じようにクズなんです…」
クソババア「!?!?」
あたし「しにたい…クズすぎてしにたい…」


私はクソババアが困ってるのに味をしめて、これ見よがしに弱っているアピールを始めた。
もしかしたら、これで私への風当たりは和らぐかもしれない。いや、和らいだところでもう関わることはないのだけれど。


結局、クソババアは私の鬱ポエムを散々聞いたのち、帰宅した。
私は内心ほくそ笑みながら、クソババアに「しにたい」だの「きえたい」だの「ていうかお前がきえろ」などとほざきまくった。

クソババアは帰り際に何も言わなかった。そんなことは初めてだった。
だから、私はクソババアへの勝利を確信した。

でも後日、そんなクソババアからメールが来た。
以下は、私が覚えている限りの引用である。





『先日はすみませんでした。
私の何が至らなかったのか、わからなかったのでまた土曜日行きます。ちゃんと話してください』


















とりあえず私は次の土曜日、友達と原宿に行きました。
やっぱ、残りの東京ライフエンジョイしないとねっ!